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2025-2026年GXと低炭素化の最新動向

1. エグゼクティブサマリー

2025年から2026年にかけて、日本のグリーン・トランスフォーメーション(GX)は、計画から実行へと完全に移行します。この時期を特徴づける3つの主要な変化があります。

第一に、政策の本格化です。2025年に改正GX推進法が成立し、同時に「GX2040ビジョン」が閣議決定されました。これにより、今後10年間で150兆円を超える官民一体のGX投資が実現されることになります。この投資規模は、日本の産業構造を根本的に変革するほどの大きさです。

第二に、市場メカニズムの導入です。2026年度から「排出量取引制度(GX-ETS)」が本格稼働し、CO2排出が直接的な事業コストとなります。これにより、企業の経営判断にCO2排出という新たな経済軸が組み込まれることになります。

第三に、エネルギーシステムの変革です。再生可能エネルギーの導入が加速し、合成メタンや水素などの次世代エネルギー技術の実用化が本格化します。これらの技術革新がGXを力強く牽引します。これらの変化は、すべての企業にとって、事業構造の見直しと新たな成長機会の創出を迫るものです。対応の巧拙が「利益」や「競争優位」に直結する時代が到来しています。

 

2. GX推進法の進化と政策体系

2025年の改正GX推進法の成立は、日本の脱炭素政策における重要な転機となりました。この法律は、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行を推進するための法的基盤を強化するものです。同時に閣議決定された「GX2040ビジョン」は、2040年を見据えた国家戦略として、日本のエネルギー政策と環境戦略の方向性を明確に示しています。このビジョンの中核をなすのが、今後10年間で150兆円を超える官民一体のGX投資を実現するという野心的な目標です。

この投資は、以下の主要分野に配分されます:

- 再生可能エネルギーの導入拡大(太陽光、風力、地熱など)

- 省エネルギー技術の開発と普及- 次世代エネルギーインフラの構築(水素、合成メタン)

- 脱炭素技術の研究開発

- 産業の脱炭素化への支援

この政策体系は、単なる環境対応ではなく、産業競争力の強化と経済成長の両立を目指すものです。企業にとっては、これまでのCSR活動の延長ではなく、経営戦略の中核に脱炭素を位置づけることが必須となります。


 3. 排出量取引制度(GX-ETS)の仕組みと企業への影響

2026年度から本格稼働する排出量取引制度(GX-ETS)は、日本のカーボンプライシング戦略の柱となります。この制度の基本的な仕組みは以下の通りです。

**対象企業**: CO2の直接排出量が前年度までの3年間で平均10万トンを超える事業者。これは、日本の大型製造業やエネルギー企業の大部分を対象としています。

**排出枠の割当**: 政府が設定した基準に基づき、対象事業者に排出枠(キャップ)を割り当てます。この枠は、産業の特性や技術水準を考慮して設定されます。

**取引メカニズム**: 毎年度、排出実績量と同量の排出枠を保有することが義務付けられます。排出枠の過不足に応じて、企業間で排出枠を取引することができます。排出量が少ない企業は余った枠を売却でき、排出量が多い企業は不足分を購入する必要があります。

**企業への影響**:- CO2排出は明確な事業コストとなり、経営判断に直接影響- 省エネ投資や再生可能エネルギーへの転換が経済的インセンティブとなる- 排出削減努力が市場メカニズムを通じて評価される- 競争力のある脱炭素技術を持つ企業が市場で優位に立つ

この制度により、市場原理を通じて産業構造の転換が促進されることになります。


4. カーボンクレジット市場の成熟と質的転換

カーボンクレジット市場は、ここ数年で大きな変化を経験しています。

**市場の進化段階**:- 2021年:「熱狂」期。市場が急速に拡大し、投機的な需要が増加- 2024年:「停滞」期。市場の過熱が冷め、調整局面へ- 2026年:「成熟」期。市場が安定し、質的な転換が進行

**市場規模と需要**:2025年時点で市場規模は約14億ドルに達しており、今後も拡大が見込まれます。企業の9割以上がクレジット購入を継続する意向を示しており、需要は安定しています。

**質への要求の高まり**:従来は、単にクレジットの「量」が重視されていましたが、今後は「質」に対する要求が急速に高まります。具体的には:

- プロジェクトの種類(再生可能エネルギー、森林保全など)

- コベネフィット(生物多様性保護、地域社会への貢献など)

- クレジットの検証と認証の厳密性- 長期的な環境効果の持続性


これらの要素が、クレジットの価格を左右する重要な要素となります。


**企業への示唆**:単なるカーボンニュートラル達成ではなく、社会的価値を創造するクレジットへの投資が求められるようになります。

5. 再生可能エネルギーの導入加速と次世代技術

2025年2月に策定された「第7次エネルギー基本計画」は、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた目標を大幅に引き上げています。


**再生可能エネルギーの導入目標**:

2030年までに、以下の導入量を目指します:

- 太陽光発電:150GW(2023年度の73GWから約2倍)

- 風力発電:45GW(2023年度の11GWから約4倍)

- 水力発電:88GW(既存インフラの活用と新規開発)

- 地熱発電:5GW(新規開発の加速)

- バイオマス:15GW(持続可能性の確保)


これらの導入により、2030年の電力供給に占める再生可能エネルギーの比率は、現在の約20%から40%以上に高まることが見込まれます。


**次世代エネルギー技術の実用化**:

エネルギー安定供給と脱炭素化の両立に向け、以下の次世代技術の実用化が本格化します:


1. **合成メタン(e-methane)**: 再生可能エネルギーから生成した水素とCO2から合成メタンを製造。既存のガスインフラを活用できるため、導入が容易です。2030年には都市ガスの1%、その他手段と合わせてガスの5%をカーボンニュートラル化することを目指しています。


2. **水素技術**: グリーン水素の製造と利用が加速。2026年度からは、エネルギー変換効率を75%に高める「ハイブリッドサバティエ」技術の実証が開始されます。バイオエタノール活用により、水素製造に必要な再生可能エネルギー電力を4分の1に削減できます。


3. **洋上風力**: 次世代再生可能エネルギーとして、洋上風力の導入が加速。大規模で安定した電力供給が可能です。


これらの技術革新がGXを力強く牽引し、エネルギーシステム全体の脱炭素化を実現します。


6. CO2排出量削減の実績と今後の課題

日本の温室効果ガス排出量削減は、着実に進展しています。


**削減実績**:

- 2023年度の排出量:10.71億トンCO2相当

- 2013年度比削減率:23.3%

- 前年度比削減率:4.0%


この削減は、以下の要因により実現されました:

- 再生可能エネルギーの導入拡大

- 電力セクターにおける排出削減努力(5%近く減少)

- 産業部門での省エネ技術の導入

- 運輸部門でのEVシフトの進展


**政府目標**:

- 2030年度:46%削減(2013年度比)

- 2050年:カーボンニュートラル達成


**今後の課題**:

現在のペースでは、2030年目標の達成は困難です。以下の取り組みが急務となります:


1. **排出量取引制度の効果的運用**: 市場メカニズムを通じた排出削減の加速

2. **産業の脱炭素化**: 特に鉄鋼、セメント、化学などの削減困難産業での革新的技術開発

3. **運輸部門のEVシフト**: 現在2.5%のEV比率を大幅に引き上げる必要

4. **建物部門の脱炭素化**: 既存建物の省エネ改修と新築建物の脱炭素化

5. **農業・食料分野の対応**: メタン排出削減と持続可能な農業への転換

7. 産業別脱炭素化ロードマップ

脱炭素化の取り組みは、産業構造そのものを変革します。各産業の脱炭素化戦略は以下の通りです。


**鉄鋼産業**:

- 現在の削減率:15%

- 2030年目標:35%削減

- 2050年目標:カーボンニュートラル達成


主要技術:

- 水素還元製鉄:化石燃料の代わりに水素を還元剤として使用

- 電炉の活用:スクラップ鋼の電炉製造により大幅削減

- CCUS技術:CO2回収・利用・貯留


**セメント産業**:

- 現在の削減率:20%

- 2030年目標:40%削減

- 2050年目標:カーボンニュートラル達成


主要技術:

- 代替燃料の活用:廃棄物を化石燃料の代替として使用

- 脱炭素化原料の活用:低炭素セメント原料の開発

- キルン電化:電気炉への転換


**化学産業**:

- 現在の削減率:18%

- 2030年目標:40%削減

- 2050年目標:カーボンニュートラル達成


主要技術:

- バイオ由来原料の活用

- 電化による脱炭素化

- 水素利用の拡大


**自動車産業**:

- 現在の削減率:25%

- 2030年目標:60%削減

- 2050年目標:カーボンニュートラル達成


主要技術:

- EV(電気自動車)の普及拡大

- 水素燃料電池車(FCV)の開発

- 合成燃料の活用


**エネルギー産業**:

- 現在の削減率:30%

- 2030年目標:50%削減

- 2050年目標:カーボンニュートラル達成


主要技術:

- 再生可能エネルギーの導入拡大

- 原子力発電の再稼働

- 水素・合成メタンの活用

8. 企業の脱炭素経営戦略

気候変動対応は、もはやCSR活動の一環ではなく、企業価値を左右する経営戦略の中核となっています。


**投資家・金融機関の評価基準の変化**:

- ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みが企業評価の重要な要素

- グリーン投資が世界的に拡大(2025年の世界グリーン投資は過去最高水準)

- 脱炭素対応が不十分な企業への投資引き上げが加速


**サプライチェーン全体での脱炭素化**:

従来は自社の排出量(Scope1、Scope2)のみが対象でしたが、今後は以下が求められます:

- Scope3排出量(サプライチェーン全体の排出量)の管理

- 取引先との連携による削減目標の設定

- サプライチェーン全体の可視化と改善


**先進的な企業の取り組み**:

脱炭素対応をコストではなく、新たな競争優位性を築くための機会と捉える企業が増加しています:

- 脱炭素技術への積極的投資

- 事業モデルの変革

- 新規事業の創出

- 人材育成と組織体制の整備


**企業への示唆**:

- 経営層のコミットメント強化が不可欠

- 全社的な脱炭素戦略の策定と実行

- 技術開発への投資拡大

- ステークホルダーとの透明なコミュニケーション

9. 国際的な脱炭素動向

脱炭素化は世界共通の課題であり、各国の政策動向が日本企業に大きな影響を与えます。


**世界のエネルギー投資動向**:

- 2025年の世界エネルギー投資額:3.3兆ドル(前年比2%増)

- 地域別投資額:

- 中国:1,300億ドル(世界最大)

- 米国:850億ドル

- EU:650億ドル

- 日本:180億ドル

- その他:720億ドル


中国が世界最大の投資国として、脱炭素技術開発でのリーダーシップを確立しています。


**EU等の先進的取り組み**:

1. **炭素国境調整メカニズム(CBAM)**: 炭素集約的な製品の輸入に対して事実上の関税を課す制度。日本の輸出企業も対応を迫られています。


2. **有償オークション方式の導入**: EUでは2033年度から、発電事業者に有償オークション方式を段階的に導入予定。


3. **脱炭素規制の強化**: 各国が脱炭素規制を強化し、国際競争環境が急速に変化。


**EV普及率の国際比較**:

- ノルウェー:90%(世界最高水準)

- スウェーデン:35%

- ドイツ:18%

- 中国:40%

- 米国:12%

- 日本:2.5%(国際的に大きく遅れている)


日本のEV普及率の低さは、国際競争力の低下につながる重大な課題です。


**日本企業への影響**:

- 国際的な脱炭素規制への対応が必須

- 競争相手との脱炭素技術格差の拡大

- 国際市場での競争優位性の喪失リスク

10. 2026年の転換点と市場構造の変化

2026年は、日本の脱炭素化における「ゲームチェンジ」の年となります。複数の要因が同時に作用し、市場構造が大きく変わります。


**排出量取引制度の本格稼働による変化**:

- CO2排出が直接的な事業コストとなる

- 市場原理を通じた産業構造の転換が促進

- 脱炭素技術への投資が加速


**新たな市場の形成**:

1. **水素市場**: グリーン水素の製造・流通・利用の市場が本格的に立ち上がります。市場規模は2030年に数兆円規模に拡大すると予測されています。


2. **合成メタン市場**: 既存のガスインフラを活用できるため、急速に拡大する可能性があります。


3. **カーボンクレジット市場**: 質的な転換が進行し、高品質クレジットへの需要が急増。


4. **脱炭素技術市場**: 水素還元製鉄、CCUS、電化技術など、革新的な脱炭素技術への投資が加速。


**企業への影響**:

- これまでの取り組みが真に評価される「審判の時」

- 対応の巧拙が「利益」や「競争優位」に直結

- 新たなビジネス機会の創出

- 既存事業モデルの変革を迫られる可能性


**対応が遅れた場合のリスク**:

- 市場競争力の喪失

- 投資家からの評価低下

- 取引先からの要求への対応不可

- 国際市場での競争力低下


11. 企業への提言

2025年から2026年にかけて、日本のGXは計画から実行のフェーズへと完全に移行します。企業は、この歴史的な転換点を、受動的に対応するのではなく、能動的に活用し、新たな成長機会を掴む必要があります。


**企業への提言**:


1. **経営層のコミットメント強化**

- 脱炭素を経営の中核課題と位置づける

- 全社的な脱炭素戦略を策定・実行

- 経営目標にCO2削減目標を組み込む


2. **排出量取引制度への戦略的対応**

- 自社の排出量と削減ポテンシャルを正確に把握

- 投資と排出枠取引の最適なポートフォリオを構築

- 登録確認機関との契約を早期に進める


3. **サプライチェーン全体の改革**

- 取引先と連携し、Scope3排出量の削減目標を設定

- サプライチェーン全体の可視化と改善

- 取引先への技術支援と資金支援


4. **技術革新への投資**

- 自社の事業領域に関連する脱炭素技術への投資を積極的に実施

- 研究開発体制の強化

- 外部との連携(大学、研究機関、スタートアップ)


5. **人材育成と組織体制の整備**

- 脱炭素人材の育成

- 組織横断的な推進体制の構築

- ステークホルダーとのコミュニケーション強化

12. 政策への提言

**政策への提言**:


1. **政策の予見可能性と一貫性の確保**

- 長期的な投資判断を可能にするため、安定的で明確な政策シグナルを発信

- 排出量取引制度の設計の透明性を確保

- 政策の急激な変更を避ける


2. **中小企業への支援強化**

- 脱炭素化への移行に伴う負担が大きい中小企業に対し、技術的・財政的支援を拡充

- 脱炭素技術の導入支援

- 人材育成支援


3. **国際連携の強化**

- CBAMなどの国際的な制度動向に対応

- 日本企業の国際競争力が損なわれないよう、戦略的な外交を展開

- 国際的な脱炭素技術開発への参加


4. **インフラ整備への投資**

- 再生可能エネルギーの導入に必要な送電網の整備

- 水素・合成メタンの流通インフラの構築

- 充電インフラの整備(EV普及促進)


5. **研究開発への支援強化**

- 革新的な脱炭素技術の研究開発への支援

- 大学・研究機関との連携強化

- スタートアップへの支援

13. まとめ

2025年から2026年にかけて、日本のGXは計画から実行へと完全に移行します。この時期を特徴づける変化は、単なる環境政策の進展ではなく、産業構造そのものの変革です。


**主要なポイント**:

1. 改正GX推進法とGX2040ビジョンにより、150兆円規模の官民投資が始動

2. 排出量取引制度の本格稼働により、CO2排出が直接的なコストとなる

3. 再生可能エネルギーと次世代エネルギー技術の実用化が加速

4. 企業の脱炭素対応が経営戦略の中核となる

5. 国際的な脱炭素競争が激化し、対応の遅れが競争力喪失につながる


**企業の選択肢**:

- 能動的に対応し、新たな成長機会を掴む企業

- 受動的に対応し、市場競争力を失う企業


2026年の転換点に対応できた企業が、次の時代のリーダーとなるでしょう。

 
 
 

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